読書

現実的な左翼に進化する 進化論の現在 (シリーズ「進化論の現在」)
ピーター・シンガー『現実的な左翼に進化する』2003年 新潮社 読了
『実践の倫理』や『動物の解放』で知られる人の本ですね。面白かったです。進化論はよく優勢思想や右派の理論に援用されることが多かったけども、この書は左翼のために、進化論がどのように役立つかを考える。もちろん旧来の「左派」に真っ向ケンカうることにもなるようだけども。(M尾氏ご立腹)


とりあえずエッセンスだけ引用

ダーウィニアン・レフトは以下のことをすべからず
・人間の本性の存在を否定すること、ならびに人間の本性は元々よいものである、あるいは限りなく変えられると主張すること
・人間どうしの対立や反目はすべてなくなると、政治革命、社会変革、あるいは教育の充実などの手段を問わず、期待をすること
・すべての不平等が、差別や偏見、抑圧や社会条件に原因があると決めてかかること。それらが原因であることもあるだろうが、すべての場合そうだとすることはできない。


ダーウィニアン・レフトは以下のことをすべし
・人間の本性というものがあることを受け入れ、それについてもっと知ろうとすること。
・「そういうのが本性である」から「それが正しい」へと決して推論しないこと。
・様々な社会的・経済的システムにおいて、多くの人々が地位を高めようとしたり、権力の座を得ようとしたり、あるいは自分と血縁者の利益を求めたりして競争するだろうとかんがえること
・その人が暮らしている社会的・経済的システムに関係なく、お互いに協力しようという純粋な機会があれば、たいていの人はそれに肯定的に反応すると考えること
・競争よりも協力が育む社会構造を展開させ、皆が望んでいる競争の終わりという方向へ事が進むよう努力すること
・弱い者、貧しい者、虐げられている者の側につくという左派の伝統的な価値観の上に立ちながらも、どんな社会的・経済的な変革をすれば本当にそういう人々のためになるのかを非常に注意深く考えること(P100-3 一部省略)

面白いし、すっごい参考になったんだけど、ものすごい勢いで文句をいいたいころがある。
それは『現実的な左翼に進化する』ってタイトル。これ駄目だよ。原題は「A DARWINIAN LEFT--Politics, Evolution, and Cooperation--」だよ?直訳するならダーウィン的左翼−政治・進化・協力」になる。どこにも「現実的」なんて単語入ってないわけ。まぁそういう挑戦的なタイトルつけた方が、話題にもなるからってことなんだろうけどさ・・・・。おいらからすると「何をもって現実的!?」と思っちゃう。


あと進化論の素養が無いおいらからすると、ただただ感化されちゃってるおいら!?と自分が信じられない罠。本書の中でも言われているように「科学的」と「科学的」がお互いぶつかった時、もう嫌。これがパラダイム間の「共約不可能性」ってやつかな。確かに、共約不可能性ってもんはあるとは思うけど、それを安々認めてしまうと共通了解を取る努力さえも損なわれてしまうんじゃないかな。やっぱりあくまでも科学を突き詰めていく精神性が大切だと思う。そこにおいらが学問的態度としてクーンじゃなくて、ポパーに惹かれる理由があるだろう。