MEMO

永井均『倫理とは何か』2003年 産業図書

道徳が、徹頭徹尾、権力現象であることをわすれては行けない。そして権力現象だからこそ、そおにさらなる一撃が付け加わるんだ。
 最低限必要な社会規範にだけ「正義」という名前を与えるとすると、福祉政策は本当は正義ではなく慈善だろう。しかし、まさにそうであるからこそ、正義という名を必要とするのだ。つまり、それを正義とよんでよいとすることもまたその慈善の一部に組み込まれなければならない。貧乏人は金持ちから恩恵によって金を恵んでもらうのではなく、金を与えられるべき正当な権利があることにならねばならない。つまり、金だけではなく、それが正当な権利であるという認定もまた恵んでもらわなければならないのだ。それゆえ、恵んでもらったというその事実を抹消するそのことも恵んでもらわねばならないわけだ。だから、恵んでもらった暁にはその事実は抹消される。(P196-7)